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「ハルモニア」を読みました

ハルモニア Book ハルモニア

著者:篠田 節子
販売元:マガジンハウス
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出版社/著者からの内容紹介
脳に障害をもつ由希が奏でる超人的チェロの調べ。それに魂を吹き込もうとする東野の側で、不可解な現象が相次ぐ。傑作ホラー長篇

え、ホラー?本の内容紹介を見て驚いた。確かに由希の発する力で周りの人は怪我をしたり死んでしまったりするのだけど、全体の印象としてホラーという感じはしなかった。

由紀はサヴァン症候群という。フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』によると、サヴァン症候群とは

知的障害を伴う自閉症のうち、ごく特定の分野に限って、常人には及びもつかない能力を発揮する者を指す。サヴァン症候群の共通点として、知的障害と共に異常といえるほどの驚異的な記憶力・表現力を持つことが挙げられる。彼らには「忘れる能力」が無いとされ、かなり昔から知られてはいたがその原因は未だ論議されており、正確には掴めていない。

との事。由希の場合は一度聴いた音楽を正しく演奏できるけど、人に対する感情が欠落している。例えば音楽のCDを聴いてる横で赤ん坊が泣き出す。すると耳障りなので赤ん坊の口の中にティッシュを詰め込んでしまう。

主人公のチェロリスト東野は自分の才能に限界を感じており、由希の才能に打ちのめされながらも惹きつけられていく。コピーではなく、内面から湧き出る演奏をさせたいと(教える自らの壁を破る事を望んでいたのか)懸命に由希と向き合う。

そして2人が近づけば近づく程、2人には破滅が近づく。内面のものを湧き出さすには今の殻を破らなくてはいけないから。それは精神だけでなく、肉体的にも由希を蝕んでいく。

全体的に、とても悲しい、寂しい話です。出てくる人は家族と別れた人が多く、東野も由希も精神的に頼れる家族は誰もいない。そして、ただ一度、殻を破った演奏をする為に蝕まれた体に薬を投与し舞台にあがる。

そこに何かを超越した喜び、達成感があるのだろうか。音楽で生きてる人にはすべてを対価にしても選びたい極地がそこにあるのだろうか。昔ピアノを齧ったことはあったけど、絶対音感には程遠かった私には実感が湧かない。でも、ピアノを弾くために手の腱を切ってしまったリストの例もあるし、凡人には想像し難い世界があるのかもしれない。

だからその世界に達した二人には結末もハッピーエンドだったのだろう。悲しいお話だけど、作者の文章力が上質できちんと座りなおして最後まで読んでしまった。やっぱり篠田節子さん、好きだな。

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